「学問は一生終わらない会話なんだよ。」

教授が授業中に残したこの言葉は、今でも私の胸に深く刻まれています。

国連平和大学(コスタリカ)と並行して学んだ、フィリピンの「アテネオ・デ・マニラ大学(Ateneo de Manila University)」でのプログラム。初めての大学院、初めての英語での授業、そして怒涛のオンライン留学。 今回は、限界まで頭をフル回転させたアテネオ大学での「社会開発学(Social Development)」の授業内容と、そこから得た大きな変化について詳しく振り返ります。

アジア平和構築奨学金(APSプログラム)とは?

私がアテネオ大学と国連平和大学の2カ国で学ぶ機会を得たのは、「APS(Asian Peacebuilders Scholarship)」というプログラムのおかげです。

これは、日本財団・アテネオ大学(フィリピン)・国連平和大学(コスタリカ)によって運営されていた奨学金修士課程プログラムです。アジア諸国から学生が集まり、「平和」をテーマに開発、法律、経済、環境などを学びます。 (※APSプログラムは2021年をもって募集を終了していますが、ここでの濃密な学びの記録として、当時のカリキュラムをご紹介します)

想像を絶するハードさ!オンライン留学のスタート

「最初が一番しんどいよ」 先輩たちからそう言われてはいたものの、正直オンライン授業を少し甘く見ていました。

いざプログラムが始まると、英語強化クラスと専門学科のクラスに必死で食らいつく毎日が始まりました。

  • 膨大なリーディング課題: 毎日、これまで読んだこともないような難解な英語論文を2〜3本読み込み、翌日のディスカッションに備える。

  • 過酷なスケジュール: 夜は23時に寝て、朝5時に起きてひたすら文献を読むルーティン。

  • ドライアイとの戦い: PDFの論文をiPadで読み続けるため、目は常に限界状態。

週2回のプレゼン準備や、大量の文献を引用する「文献レビュー」の執筆など、今振り返っても恐ろしいほど切羽詰まった日々でした。しかし、この「際限なく忙しい環境」こそが、タイムマネジメント能力を極限まで引き上げてくれました。

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社会開発学(Social Development)の具体的な授業内容

アテネオ大学でのメインとなる「社会開発学」のプログラムは、主に以下の3つの授業で構成されていました。

1. 開発の主要概念と議論(Key Concepts and Critical Debates)

「開発とは何か?」という定義から始まり、アジアの学者の論文を中心に読み込み、グループでのプレゼンテーションとディスカッションを繰り返す授業です。

  • 主な学習テーマ: 貧困、空間的平等性(都市の格差)、グローバル化とその影響、人権、コミュニティによる開発、持続可能な開発(SDGs)、ジェンダーなど。

2. 社会理論と開発(Social Theory and Transdisciplinary Development)

個人的に一番面白かった授業です。「開発」という概念が過去の思想からどのように確立されたのかを論理的に理解します。教授が学生の意見を巧みに引き出してくれるため、熱いディスカッションが交わされました。

  • 主な学習テーマ: マルクス主義、近代化、新自由主義、マックス・ウェーバーやエミール・デュルケームの理論、アジアの開発、脱グローバル化など。

3. 調査手法(Research Methods)

卒業プログラム(調査)に向けて、リサーチのメソッドを学ぶ講義中心の授業です。

  • 主な学習テーマ: 問題提起の仕方、文献レビューの書き方、量的調査と質的調査の違い、参加型調査の手法、調査における倫理とマナーなど。

アテネオ大学の授業を通じて得た「3つの大きな変化」

寝る間を惜しんで駆け抜けた怒涛のプログラムを終え、私自身の中に明確な変化がありました。

  • 1. 難解な本が「面白く」読めるようになった 以前は数ページで睡魔に襲われていたような専門書(岡真理『記憶/物語』やE.W.サイード『知識人とは何か』など)が、驚くほどスラスラと、しかも面白く読めるようになりました。膨大な英語論文を読み込んだことで、思考の体力と理解力が劇的に向上したのだと思います。

  • 2. デジタルツールによる圧倒的な効率化 iPadなしではこの量の論文はこなせませんでした。ペーパーレスでの読書、タスク管理、Zoomリンクの整理など、デジタルデバイスを駆使したスムーズなワークフローが完全に定着しました。

  • 3. 「英語で学び、発信する」ことへの抵抗感が消滅 クラスメイトとの議論、課題の執筆、事務連絡まで、すべてが英語の環境を生き抜いたことで、英語でのコミュニケーションに対する心理的ハードルが完全になくなりました。

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まとめ:学びに「正解(Right or Wrong)」はない

「社会開発」という際限なく広いテーマを扱う中で、最も印象的だったのはクラスの雰囲気です。 100人いれば100通りの人生があり、国が違えばやり方も違います。多くの学生が口にしていた**「There is no right or wrong(正しいも間違っているもない)」**という言葉が、すべての議論の前提にありました。

自分が生きてきた中で無意識に築き上げていた「バイアス(色眼鏡)」を外し、「なぜ世界はこうなっているのか?」と問いを投げる。すると、多様なバックグラウンドを持つクラスメイトから、全く異なる色の答えが返ってくる。

解決されていない問題には理由があり、一見間違っているように見えることにも筋の通ったシナリオが存在します。 自分の経験を丁寧に見直し、世界の深みを知る。まさに「終わらないディスカッション」を続けることの尊さを教えてくれた、最高の環境でした。